🐏のねごと

ここに書いてあるのは大体ねごとだと思ってください。

死んで欲しかった人が死んだ話

最初に断っておきます。

 

この記事はいつも以上に長くてまとまりがありませんし、読んでいて気持ちの良いものでもありません。

 

この記事を公開するのは、この感情を形にして残しておきたいからです。自分が後から振り返った時にどう思うのか、その材料にします。

 

とはいえ、正直な話、聞いて欲しいと思っている自分がいることは認めます。

 

ただ、これを読まれて何か物申したいことがあったとしても、それがぼくの思いや考えを変えることはきっとありません。

 

 

 …

 

 

 

父方の祖母が死んだ。

コロナウイルスに罹って死んだそうだ。

 

妹経由でそれを知った。何なら今も父親から俺には連絡が着ていないし、いつ死んだのか、葬式は済ませたのか、そもそもあるのかどうかも分からない。

4月30日(木)の23時過ぎ、友達の家で楽しく話していた時に妹からLINEが着て、そこで初めて聞いた。突然過ぎて理解が追い付かないとはこういう事かと思った。

 

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高低差あり過ぎやろ

 

驚きこそしたものの、一切悲しいとは思えなかった。むしろ、あまりにもあっさり死ぬものだから笑ってしまった。あの人間は、誰よりもしぶとく生きるものだと思っていた。可笑しくて堪らず、にやけが止まらなかった。

 

 

 

俺は、あの人間を心の底から嫌いだった。

それこそ、死んで欲しいと願うほどに。

 

その理由のひとつは、あの人間が出来損ないの息子(俺の父親)を溺愛していたことにある。

要するに、嫁姑問題が酷かったのだ。

 

「10歳上の、水商売家系の卑しい女が、息子の将来を奪い、我が家の資産を食い潰そうとしている」

 

母親が俺を妊娠し、父親と結婚するかどうかの話になっていた時、あの人間はそう考えていた。当然、父方の人間は結婚に反対だった。

母親はその立場を理解しており、俺を産むがそちらに迷惑はかけないと告げたが、結局体裁を気にしたのか、父親の意志かで結婚することになった。

 

俺の父親は、浪人して専門学校に進学するのが精一杯で、親から継がせてもらった会社を衰退させ、酒に酔った勢いで妻に暴力を振るい、実の子供からの信用は皆無で、約束した養育費すら満足に払えず、50歳も過ぎて実家に寄生し、アルバイトで日銭を稼ぐ、お手本のようなゴミクズだ。

 

約12年前の離婚、いや結婚生活中のあらゆる事件において、あの人間はそのゴミクズの肩を持った。

離婚の原因は父親というより、あの人間にあったと母親も言っている。耐えられなかったのだと思う。

 

嫁姑問題はどの家庭にでもあることかも知れないが、それは俺の母親が傷付き、苦しめられ、悩まされた事実を仕方ないと受け入れさせて良い理由には決してならない。

 

ところで、あの人間は離婚する前からそうだが、俺ら兄妹と従兄妹との扱いに差をつけていた。あの人間の娘(父親の妹)もしたたかで、あの一族にとって「格の相応しい」旦那との間にもうけた子供はやはり可愛いのだろう。俺や妹が訪ねる度に、その場にいない従兄妹の話を持ち出しては褒め称えていたのを覚えている。

だから、孫の中で一番不出来だった俺が関大に合格したと伝えた時は「『あの』ひろくんが『まさか』ねぇ」と言った具合に、如何に期待されていなかったのかを露骨に伝えてきた。

 

そういう事も相まって、俺は大学生になる頃には父親側の人間を全員憎悪していた。その一方で、母親が離婚に際して受け取るはずだった金額分、利用できるところは全て利用してやろうと画策していた。

そのため、とにかく形式上の挨拶を欠かさず行ってきた。母親に嫌味を言われながら、合わせたくもない顔を合わせてきた。結果として、俺は最も嫌う人間から留学費用やお祝いの金など約100万円を引き出すことができた。

留学費用などは働いて返すという約束になっていたが、そんなもの守る気は更々なく、就職祝いを受け取ったらすぐに縁を切ってやろうと算段を立てていた。

 

2019年の9月だったか、俺は就職したことを報告しに家を訪ねた。就職先を告げた時に、どういう反応をされたかは覚えていない。

夕食を終え、「さて、どうやって就職祝いを貰って帰ろうか」と考えていたら、あの人間が突然こんな事を言い出した。

 

「ひろくんはお父さんとアンタのお母さんとの話を、どう思ってるの?」

 

不意の質問だったが、俺は妹が何か言ったのだなと察した。妹は妹で、父親と祖父母を利用していたことがあるからだ。

案の定、妹が「お父さんは父親としての役目を果たしていない」という様なことを言ったと続けて話した。

 

本当は父親本人にこそしておきたい話だったが、この際こいつとはこの場で決着を付けてやると決めた。質問を投げかけられた時点で冷静さを失っていた。

俺ははっきりと妹の言葉を肯定した。離婚に関しても、母親は悪くないと断言した。

 

当然、話は拗れて口論になった。

あの人間は終始俺の母親の言葉遣い、相手を挑発する態度、常識のなさを挙げ、己の愚息の正当性を主張した。

話は結婚の時にまで遡り、さも俺が居なければこんなにややこしい事にはならなかったと言うような口振りに激怒した俺が、

 

「俺が産まれて来なければ良かったって意味か?」

と問うと、

 

「そうや」

と返ってきた。

 

この瞬間、俺はなんて馬鹿な質問をしたのだろうと思った。そんな事、聞かずとも分かっていただろうに。

それでもショックだった。

血の繋がりがある人間から本気で存在を否定されるというのは、これ程までに深く心に影を落とさせるのかと。

 

「同じ孫である以上、アンタらと○○(従兄妹)らの間に差はつけずに接しているつもりだ」と言ったその口が、数十分後には俺がいなければ良かったと言った。

 

その時になってようやく祖父が介入し、話は終わった。重い空気が漂う中、「つまらん話をした」と祖父が一言落とした。その言葉で俺の中にあった祖父に対する一縷の望みも完全に失われた。

祖父は比較的温情があって筋を通す人間だったと思っていたが、それはどうやら思い込みだった。

 

金輪際関わらない。

今日を以て縁を切ろうと決めた。

 

 

 

そして、あの人間が死んだ。

初めてタブーだった話題について口論になった2019年の9月に見たあの人間の姿が、俺にとって生前最後の祖母の姿になった。最も醜い姿で死んだ。

俺は、あの人間が死んで嬉しいし、笑えるし、清々するが、悔しくもあり、苛ついてもいる。

 

縁を切ったつもりが切れていなかった。

やり場のない怒りとは正にこの事だ。

 

ここまで散々に書いたが、文字に起こすと気持ちがクリアになる。

そして気持ちがクリアになると、余計な考えが浮かんでくる。

 

表面上でもあの人間は俺ら兄妹には親切に振舞っていた。

あの人間が居なければ俺が存在していないのも事実だし、あの人間の血を引いているのも事実だ。

ここまで黒い感情を抱いている俺は、詰まるところあの人間と同じ穴の狢なのではないか、もしかするとそれ以上に人間性に欠陥があるのではないか。

 

もうあの人間と会話することは出来ない。

あの人間が本当に俺さえいなければややこしくならなかったと思っていたのか、確かめる術はない。

相手は謝りたかったかも知れない。それを知ることは出来ない。

俺も酷いことを言った。謝りたいと後で思っても、それももう出来ない。

 

こんな終わり方で良かったのか俺には分からない。